よく晴れた、ある日のこと。
 澄み渡る秋空と紺碧の海が広がる中、紅葉よりも深く鮮やかな赤い髪を
 片側で結った少女が、大きな獣と共に、待ち人を待っていた。

 彼女の名は、結城火焔。
 今日は、先日助けてくれた玄霧という名の男性に、お礼をしようと思っているのである。

 手には大きなバスケット。
 中には、慣れないながらも心をこめて作ったケーキと、お礼の手紙。
 それらを手にして、待ち合わせの場所に立つことしばらく。
 ようやく、待ち人がやってきた。。

 「や、どうも。今日は一日よろしく・・・ってのもなんか変な感じだけど」と、苦笑しながら
 言う玄霧に、火焔は無言で頭を下げ、玄霧の顔をみないようにしながらバスケットを差し出す。

 「ん、中みていいかな?」 
 「ありがとう。これ、豚の丸焼き」
 「ん・・・あぁ、いや。気にしないで。やりたいことをやっただけだから」と言いつつ、
 満面の笑みでバスケットを受け取る玄霧に、小さな声で、火焔はお礼を言った。
 差し出されたバスケットは、かなり重かった。

 重いバスケットを持ちつつ、玄霧は火焔に行きたいところを尋ねた。
 火焔はこの前のお礼として、一日玄霧に付き合うつもりである。
 側にいる相棒であるコガに行きたい場所を尋ねると、公園以外という答えであった。
 公園は、現在洪水のため立ち入り禁止となっているためである。


 澄み渡る秋空には雲ひとつなく、秋晴れのさわやかな風が潮の香りを纏わせながらそよぐ。
 海は太陽の光を反射して煌き、うみねこの声がどこかから聞こえる。
 気持ちのいい天気であった。
 「とりあえず、コレみんなで食べようか。どこかにピクニックみたいな感じで」
 「食べ物は速めに食べたほうがいいからね」
 玄霧の言葉に火焔は、「げ」と呟いたあと、急にうろたえだした。

 「せ、せっかく、贈ったものだから、ひ、ひとりで食べ」
 うろたえ、目をそらし、顔を赤くする火焔。
 それは、とても可愛らしいものである。

 そんな火焔に、玄霧はニコニコと意地悪く微笑みながら、
 両手でバスケットを持ちながら近づいていく。

 近づいてくる玄霧。
 火焔は首まで真っ赤に染まり、さらに目をそらしながら後ずさった後、
 「じゃ、そういうことで」
 そう言った後、逃げようとした。
 しかし、その細腕は玄霧の腕によって捕まえられる。

 彼は、懲りずにコガにバスケットの中身を尋ねた。
 ぐるぐる状態に陥り、これ以上ないほどにうろたえる火焔。
 そんな火焔を助けるため、コガはため息をつきながらも、
 火焔を口にくわえ、その場を逃げ出した。


 火焔は、バスケットの中身を見られたくなかった。
 理由は、恥ずかしいから。
 そして、玄霧の反応が怖かったというのもあるだろう。
 それだけ、心をこめて本気で作ったということである。

 中にあった御礼の手紙には、
 ありがとう。 と、 料理下手でごめん と、嬉しかった。とあった。






 時は進んで、一週間後。

 以前、火焔と待ち合わせたのと同じ場所に、玄霧は佇んでいた。
 すると、コガが現れた。

 「うまかった。今まで食べた何よりも」
 「こないだは申し訳ない。あまりの可愛さにやられた・・・」
 そう、コガに伝えた玄霧。
 コガは、半眼で呆れたように見つめながら、尻尾を振っている。

 そんなコガの気持ちが伝わったのだろう、バツが悪そうに、
 「いやなんというか。許してくれ。といっても本人に言わなきゃいかん訳で。火焔の場所知ってるかな?」
 とコガに尋ねた。

 ため息をつく、コガ。
 きびすを返し、走り去っていく。
 その毛皮の中には、腹にしがみついた火焔が見えた。

 あわてて追おうとしても、時既に遅し。


 甘酸っぱい後味を残しながら、風とともに、コガと火焔は去っていった。




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